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PUEは単なる指標でありそれ自体が目標ではない【特集】

PUEに固執しすぎると、持続可能性が失われる可能性がある

メトリック (=測定基準)としての PUE (電力使用効率)は、2007年の発表以来、データセンターの効率性を測るシンプルな指標として疑う余地もない功績を残してきました。PUEによる格付けは、データセンター全体の消費電力量をICT機器の消費電力量で割る事で得られる数値に基づいており、冷却・電源設備・照明他など、ICT機器以外が消費してしまう過剰な電力を露わにします。

シンプルかつ一見透過性も見られたため、データセンター業界全体でこのメトリックの活用は進み、全般的な改善がもたらされました。2007年から2018年の間に、業界全体の平均PUEは2.5から1.58まで低下しました。これは、電力損失が60%以上削減されたことを意味します。

しかし、この進歩は主に初期の段階でもたらされています。2013年時点の平均PUEは1.65まで改善されていましたが、その後2018年にかけては0.07しか下がりませんでした。そして2019年5月にUptime Institute が 発表 した最新データでは、なんと数値は上昇しました。ちなみに現在は1.67のようです。

さて、進歩は停滞したのでしょうか?それとも逆行し始めたのでしょうか?第三者の観点としては、依然として非常に多くの電力が「浪費」されている、と考えています。

容易に解決できる問題は対応済みだが…

厄介なことに、容易に得られるメリットは既に実現されているようです。冷暖分離、フリークーリング、ファンや配電制御の改善、等々の様々な対策の結果、初期の段階では大きな飛躍がもたらされました。しかしそれらは現在、新たなリスクをもたらしています。例えば外気冷却への依存は火災などの事象に対する脆弱性を高めるでしょう。UPSに対する妥協は、ローカルグリッドの信頼性に多大な信用を置くことになります。単一のデータセンターに依存するユーザーは、その信用を共有するのは困難です。 しかしわずか1秒の停止でも壊滅的な費用損失が発生することがあります。

アイルロック – Upsite

したがい、効率性は依然として重要ではあるものの、それ自体のためにPUEを下げることに集中し続けていると、大規模コロケーションデータセンター、ハイパースケールデータセンターを除き、結果的に収益を減少させる可能性があります。一方、現在のハイブリッド型ソリューションへの動きも、単一の指標としてのPUEの有効性を損ないます。(オンプレミスの)サーバのクラウドへの移管が進むと、全体的な電力消費量は低下しますが、残った少数のサーバで割る事になるため、当然サーバ室のPUEは増加します。このようなパブリッククラウドへの移行の動きが、2019年の世界的な平均PUEの上昇を牽引したようです。

Source: The Green Grid

また、データセンターのPUEは、IT負荷のkWあたりのPUEとは異なります。センター側が室温を上げ、クライアント側機器のファンにその役割を渡すことにより、コストや見かけ上の効率を改善している可能性があります。

本当の問題は、PUEが、データセンターの環境プロファイルでますます重要な部分を形成しつつある他の効率性向上指標を反映していないことです。例として、データセンターのIT機器で生成された廃熱を使用した家庭や企業への暖房提供や、ヒートポンプを介して直接電力を生成し熱回収を行う、等があります。(※ ERE : エネルギー再利用効率)これらは電力の無駄を大幅に削減する可能性がありますが、追加の機器が必要にりセンターのPUE値が上昇する可能性あります 。

もちろん現実には、顧客が一つの要素だけで判断を下すことはめったにありません。2018年12月にSupermicroは、意思決定者の59%が電力効率を重要だと考えていることを示す調査結果を発表しました。しかし、驚くべきことに、58%は彼らのデータセンターのPUE値さえも知りませんでした。またこの調査では、セキュリティ、接続性、パフォーマンスとすべて同等と見なされ、電力効率を戦略の主な要因としたのはわずか9%であることがわかりました。ただし、コストや外部から見た企業評価など、効率性の向上は運用の他の多くの側面に影響を与えるため、この数字は、意思決定に対する効率性の真の影響を過小評価している可能性があります。

データセンターと利用顧客双方にとって、コストと環境フットプリントの両方を削減する為には、効率性を中心的な考慮事項とし続ける必要があります。鍵は単一のメトリックに過度に依存せず洗練されたアプローチを維持することです。例えば以下のような、より広範囲のメトリックと影響を考慮する必要があります。

– Pixabay

  • 再生可能エネルギーの使用: 電力供給源の監査は役立ちますが、理想的には消費されるすべてのkWhが再生可能エネルギー源から直接生成されていることを保証する監査可能なエネルギーサプライチェーンです。
  • より良いデザイン: 最新のモジュール式で柔軟性を持つ特注の施設は、はるかに効率的であり、そしてパフォーマンスと効率において精密なKPIを満たすように設定できます。
  • 専門知識: データセンター運用の商業的・環境的影響は非常に大きな為、適切な意思決定を行うには、一定のスキルと知識を備えた専属チームが管理する必要があります。
  • メンテナンスの改善: 専門家チームが専門装置を理解し、最適なレベルで機能させ続けることで、費用の削減と持続可能性を高めます。
  • イノベーション: データセンターの世界は常に進化し続けています。継続するイノベーションの反復は効率性の向上とカーボンコストの削減をもたらします。最高のイノベーションを確実に活用することは、持続可能性を継続的に高めていく基本です。
  • パートナーシップ: 顧客それぞれの負荷は異なります。直接クラウド接続ではなんらかの冗長構成は重要になるでしょう。変化するニーズに助言し、柔軟に適応することで、新しい効率を生み出す機会が生まれます。

すべてのメトリックは、ソリューションそのものではなく道標として見なされなければなりません。いずれかの手段を盲目的に順守すると、意思決定のゆがみや、究極的には進歩の妨げとなる可能性があります。PUEなどの単一の「魔法の弾丸」のような指標に頼るのではなく、データセンター事業者や利用顧客は、ソリューションの真の効率性を求め、日常的に挑戦し続けなければなりません。

効率性を真に追及する中で、より広く包括的な見解を持つ事で、商業的、環境的、そして企業評価により良い成果をもたらすでしょう。


Data Center Dynamics

原文著者: Halvor Bjerke氏 (DigiPlex 社 chief operating officer )

DC ASIAにて一部意訳・補足追記

原文はこちら

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