ITインフラの運用費を懸念する企業が多数 – DCD調査結果

エンドユーザーにしろコロケーション事業者にしろ、[運用費用の上昇]を課題として挙げる企業が多くみられた

Nick Parfitt, senior global analyst – DCD

2019年、APACにおけるデータセンター産業(ここでいうデータセンターとは、いわゆるデータセンター事業者が提供する商用データセンターから、一般企業で保有する小規模サーバールームまで、ITインフラのファシリティ全般を指します)では、「運用費用」が 最大の関心事となっているようです。調査を担当したData Center DynamicsのシニアグローバルアナリストであるNick Parfitt氏は、「この傾向は、一般的なオフィスサーバールームでも、 コロケーション 事業でも双方に共通することだ」と指摘します。

今回の調査では、同地域におけるデータセンターおよび クラウド マーケットの現状を取り上げており、2019年にDCDが行った”Asia Pacific Data Directions Survey”の中でも特に重要な調査結果の一つとして注目できます。

運用コスト上昇、その背景には「クラウド化」と「障害時のリスク増」

調査結果の中で際立っていたのは、データセンター市場における主たるプレイヤーたちが共通の課題を口にしたことです。エンドユーザーの55.6%、コロケーションプロバイダーの56.9%が、[運用費用]を最大の課題に感じていると回答したのです。(ここでいう運用費用とは、人件費や設備維持費、光熱費などいわゆる運用でかかる費用総額のことです。)それに続く懸念点としては、エンドユーザーはサイバー攻撃の脅威とキャパシティプランニングを、コロケーションプロバイダーは、キャパシティプランニングとアップグレードに必要な費用を、それぞれあげています。)

「運用費用は、これまでもずっと課題として認識されてきましたが、今や多くの関係者から最も懸念されています。DCDが過去15年間に渡り行った調査によれば、[ITコスト]や[データセンターのオペレーションコスト]が、その主要因であると報告されてきました。しかし、近年では新たな課題が浮上しています」とPrafitt氏は指摘します。

データセンター事業者らの間で、運用費用が問題視される背景には、デジタルインフラストラクチャーの重要性が高まり、ワークロードのクラウド移行に伴う運用負担が増していることと、データセンターへの依存度やデジタルトランスフォーメーションの影響が強くなることで、障害が発生した際の事業失敗のリスクが高まり、それに対応するための運用投資が必要とされていることがあげられます。

「運用費用が高くなるのは、それだけ障害が発生した際のリスクが高まっているからです。システムが正常に機能しない場合に被るコストは以前より高くなっていますし、従来よりもネットワークを介して行われる様々な取引が増えたわけですから、関係者の数もはるかに増えていることが分かります。」

APACの市場動向を紐解く

Hong Kong – Pixabay

40億人以上が居住し、世界で最も成長している経済圏であるAPACですが、地域内におけるデータセンター市場の成熟度の差は大きいです。そのため、APACと一括りにして予測を行うことは有意義ではないかもしれませんが、Parfitt氏は、同地域における複数の先進国と新興市場について見解を示しました。

「まず、シンガポールと中国本土はかなり高いレベルでクラウド展開がなされています。シンガポールはまさに有数のデータハブ地であり、外国企業の大型のデータセンターの運用を引き取る一方で、エンドユーザーなどが利用するインハウス型の割合は高くありません。」

「中国は巨大な市場ですが、この国の傾向を一般化することは不可能です。データセンターの大半は東部および南部に位置しています。」と述べた上で、インハウス型のデータセンターの開発がやや上昇傾向にあることを指摘しました。これは、 ハイブリッドクラウド の展開への関心の高まりや、自社データセンターを運用する巨大企業の登場によるものだと見ています。

Tokyo – Pixabay

オーストラリアやニュージーランド、日本などのより安定した市場においては、企業所有のデータセンターと、コロケーションデータセンター、そして パブリッククラウド が均等に組み合わされながら成長しています。いわゆるハイブリッドクラウド環境の導入を進める企業が目立つわけですが、その中でも、自社サーバールームは減少傾向にあり、クラウドへの移行が目立ちます。

最後に、最も成長しているインド、インドネシア、東南アジアの市場については、自社サーバールームの数自体は減少傾向にありますが、 依然として最も高い比率を占めるというデータが出ています。これらの企業が、クラウドサービスやデータセンターへの アウトソーシング を利用するかどうかは、コロケーションデータセンターへの信頼と、利用できるクラウドサービスのオプション次第のようです。

今後も、自社のオンプレ環境が完全に姿を消してしまうことはないとParfitt氏は見ています。「今回の研究が示唆しているのは、クラウドへの移行が進むとはいえ、企業サーバールームにも明確な役割があるということ、それはおそらく、セキュリティや信用性の問題があるということです。APAC市場においても、大手の企業でも、自社サーバールームでの運用を続ける企業が一定数見受けられるはずです」

デジタルトランスフォーメーション=データセンター市場成長の鍵?

Parfitt氏によれば、中国やインド、インドネシアといったAPAC地域最大のマーケットには、まだまだ成長の余地があると言います。今年のレポートでは、インドは中国とともにAPAC地域における指導的役割を担うために必要となる重要な技術革新を、 圧倒的なデジタルインフラストラクチャーのキャパシティを利用して開発中しています。

[デジタルトランスフォーメーション]によって、データセンター需要が伸びるとみるのは果たして正しいのでしょうか。Parfitt氏は次のように感がています。

– DCD

「デジタルトランスフォーメーションの定義は様々ですが、世界中でやりとりされるデータの量は増え、既存データセンターの電力密度に影響を与えているのは間違いありません。今後、デジタルトランスフォーメーションが進む中で、新しいサーバールームやデータセンターを積極的に建設する動きよりも、コロケーションやクラウドサービスを含めた[混合型のインフラストラクチャー]を構築する傾向があります」

「デジタルトランスフォーメーションを促進するためには、これまであったような巨大なデータセンターが絶対に必要というわけではありません。しかし、エッジコンピューティング環境には高密度システムの展開が必要となるでしょう。」(詳細は エッジコンピューティング 参照)

「私には、エッジコンピューティングこそが、デジタルトランスフォーメーションやIT効率向上、コスト削減への鍵のように見えます。従来のITモデルが変化していくのを私たちは目の当たりにしているのです。この変化は、データセンターという範疇を超え、デジタルインフラストラクチャーのあらゆる領域へと及んでおり、ビジネスモデル自体をも前進(変化)させるものでしょう」

と彼は述べ、エッジ展開が関心の的となっていると指摘しました。

– Data Center Dynamics

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