宇宙: データセンターの最後のフロンティア【特集】
Project AscendとEUが描く宇宙データセンターの夢
表面的には、データセンターを宇宙空間に設置するというアイデアは、その目的のひとつである二酸化炭素排出量の削減を狙ったものでもありますが、いささか突飛な印象も受けます。
結局のところ、ロケットを宇宙に飛ばすのは環境に優しいプロセスとは言えません。例えば、スペースX社のファルコン9を宇宙に送り出すには40万リットル以上のロケット燃料が必要であるし、何かを修理するためのエンジニア派遣は、スローやダラスのダウンタウンに派遣するほど簡単なものではありません。
また、電力供給の課題もあり、施設の電力はすべて太陽光発電で賄う必要があります。さらに、静止軌道が約22,200マイルも離れているため、通信のすべてが大気の干渉を受けることになり、遅延も顕著になると思われます。
さらに、太陽フレアによる電磁波干渉のリスクも高まり、地球軌道上に増え続ける宇宙ゴミとの高速衝突のリスクも無視することはできません。
そして最後に、ある時点で地球上に落下するリスクもあります。
これらの問題は、世界最大の人工衛星メーカーの一社であるタレス・アレニア・スペース(Thales Alenia Space)社の技術部長、Yves Durand氏にとっては、どれも目新しいことではありません。
しかし、欧州連合(EU)が資金を提供する16か月にわたるプロジェクト「Ascend」(Advanced Space Cloud for European Net zero emission and Data sovereignty)の一環として、Durand氏と彼のチームは、宇宙でデータセンターを運営することの実現可能性と、2050年までにEU大陸をカーボンニュートラルにするというEUのグリーンディール計画に合致するかどうかを検証することに取り組んでいます。
「要するに、データセンターのキャパシティを宇宙空間に置くことが、データセンターのカーボンフットプリントの削減に役立つかどうかを確認するためのフィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)なのです。宇宙空間にデータセンターを設置し、宇宙空間からエネルギーを取り込み、宇宙空間の自然冷却を利用することが役に立つのかどうかを問うているのです」。Durand 氏は、DCDのEdge Computing Channelでの最近の配信でこのように語っていました。
つまり、軌道に乗せるには膨大な量のロケット燃料が必要になるかもしれないが、電力と冷却の節約には十分な効果があり、特定のデータセンター・アプリケーションにとっては検討に値する可能性があるということで、EUの科学研究プログラム「Horizon Europe(ホライゾン・ヨーロッパ)」の一環である200万ユーロ(210万ドル)のプロジェクトでそれを見極めるのがDurand氏の役目となっています。
「宇宙空間の重要性はますます高まっています。例えば、人工衛星が地球を撮影し、環境に関する多くのデータを取得しています。また、火災や地震などの潜在的な環境問題を地球で観測し、迅速に対応しなければなりません」
「そのため、宇宙空間での処理とデータ保存は非常に理にかなっています。これは野心的なプロジェクトですが、宇宙環境に耐えられるサーバや 電子機器の製造に関して、私たちが何をすべきかという視点を与えてくれるでしょう。また、宇宙空間にデータセンターを持つことで、宇宙資産をよりグローバルなクラウド環境に統合できるようになるはずです」
私たちはすでに単体の衛星からコンステレーションへと移行しており、「衛星間リンクやレーザー通信で相互に通信できるようになりました-これは空の情報ネットワークなのです」とDurand氏は言います。
次のステップは、マイクロソフトも参加する共同実験として、国際宇宙ステーション(ISS)に小型サーバを設置することです。マイクロソフトはこのサーバを実装し、クラウドに統合し、そしてカメラを設置して、地上の専門家がISSに直接行かなくても、宇宙空間でこのキャパシティを使って何ができるかを確認できるようにする計画です。
これは、HPEとSkycorpがISSにハードウェアを送り、放射線がハードウェアに与える影響を調べた以前の実験に続くものです。JSATや NTTといった企業も、宇宙にデータセンターを設けることを検討しています。
しかし、設置やメンテナンスについてはどうなるのでしょうか?
Durand氏によれば、ここからがロボット工学の出番だといいます。ヨーロッパ最大の衛星打ち上げ会社であるAriane GroupとAirbusに加え、ドイツのロボティクス・メカトロニクス研究所(DLR)もチームの一員であり、現在、データセンターを軌道に投入した後の設置や継続的なメンテナンスにロボットを使用する可能性について検討が進められています。
では、電力問題についてはどうでしょうか?最初にそこにたどり着くまでの400,000リットルの問題と、太陽光発電だけで大容量のデータセンターを運営することが本当に可能かどうかの問題です。
最大の問題は、単にそれが理にかなっているかどうかを見極めることであるとDurand氏は認めています。技術的には可能かもしれないし、研究は価値があるかもしれませんが、EUのネット・ゼロの野望という点では可能なのでしょうか?
「2050年までに、再生可能エネルギーの容量が無制限になることはないでしょう。そのため、最初の課題は、データセンターのニーズがどのように進化するかを分析することです。データセンターの利用が爆発的に増加し、例えば、検索エンジンとしてGoogleの代わりにChatGPTを利用するようになると、データセンターの処理ニーズは膨大なものになるでしょう」とDurand氏は言います。
そのため、データセンターのエネルギー需要は増加し続け、地球上の再生可能エネルギー源はそれに追いつくのに苦労するかもしれません」。
「プロジェクトを始めた当初は、単純なライフサイクル分析になると思っていたのですが、非常に複雑になり、いくつかの種類の分析が必要になりました。これには膨大なエネルギー予測も含まれます。しかし、私たちはこのプロジェクトに関心を持つその道の専門家にどんどん話を聞き、このプロジェクトが意味のあるものであることを確認しているところです」
「これは、ヨーロッパの宇宙産業とテクノロジー産業の双方にとって、大きな後押しになるかもしれません」とDurand氏は言います。
持続可能性という点では、スペースXのファルコン9のような大型ロケット、あるいは2050年時点のそれに相当するロケットは、価格だけでなくロケット燃料の使用量においても規模の経済をもたらすことができるかもしれません。
さらに、2050年までには、地球を周回する宇宙ステーションがもう少し増えるかもしれないし、スペースX社のイーロン・マスクCEOの意向に沿えば、月面基地はもちろん、火星にも基地ができるかもしれません。
そして、そのひとつひとつが、地球外への進出に伴い、それらをサポートするデータセンター設備を必要とすることになるでしょう。
この記事は海外Data Centre Dynamics発の記事をData Center Cafeが日本向けに抄訳したものです。
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