マレーシアのデータセンターが電力値上げ、チップ規制、米国関税の三重苦で潜在的危機に

7月8日に開催された「Johor Interconnect World Forum 2025」で、ある業界オブザーバーは、米国の関税引き上げ、電力料金の値上げ、先進チップへのアクセスに対する米国の抑制提案という三重苦に早急に対処しなければ、マレーシアのデータセンター業界は危機に直面する可能性があると述べました。7月1日から値上げされた電力料金は業界を不安にさせました。加えて7月8日に発表された米国の関税引き上げに続き、チップ規制案が報告されたため、この問題がすぐに解決されなければ本格的な危機が発生するとの懸念が高まったと、オブザーバーは述べています。

その結果、これらの問題の深化に対して、業界は一致団結して対応策を打ち出そうと奔走しており、業界の代弁者としての役割を果たす団体を設立する計画であることが、フォーラムで明らかになりました。

業界のベテランは、「最近、多くの悪いニュースが我々を襲っていますが、その中で最も厳しいのは電気代の値上げです。データセンターにとって電気代は最大の運営コストであるため、この値上げは我々の運営コストにさらに大きな負担を強いる可能性があります」と語っています。また、エネルギー委員会が今のところ対応策を打ち出していないことについて、同氏は最悪の事態を恐れていると話しました。特にマレーシアのデータセンターの大半が立地するジョホール州では、これまで空前の好景気を享受してきただけに、大きな落ち込みを予想する声もあります。業界の試算によると、電気代は総運用コストの60%に達する可能性があるとのことです。

一方、マレーシアと米国との間で進行中の関税交渉や、チップ規制の詳細が未確認であること、エネルギー委員会などの当局と電気料金について対話する可能性があることなどを理由に、事態がこれほど悪化することはないだろうと楽観視する声もあります。これについて、先のオブザーバーは、後者は不可能ではないが、少し難しいかもしれない、とコメントしています。楽観論者は、こうした課題の一方、クラウドコンピューティングとAIの導入が広範かつ急速に進んでいるため、成長軌道は依然として力強い、と見ています。

それでも、この三重苦は業界全体を冷え込ませています。

チップ規制の不確実性

先進的なAIチップへのアクセス制限はまだ確定していませんが、マレーシアやタイのデータセンターの成長を阻害するのではないかと懸念されています。ASEANにおける新規データセンター投資(初期段階を含む)の70%以上はマレーシアとタイで行われるため、AIチップへのアクセスが制限されれば、この2か国だけでなく、ASEANにおけるより広範なデータセンター開発に重くのしかかる可能性がある、とMaybankはメモで述べています。

データセンター・アドバイザリー会社Sprint DC Consultingの創設者兼ディレクターであるGary Gohは、規制の可能性に反応するのは時期尚早であり、今後数週間でより明確になるだろうと述べています。同氏は、「私たちが考えているよりも悪くなる可能性もあるし、それほど制限的でなくなる可能性もある」とし、 当面の影響については、建設中のデータセンターにとっては対策を講じるには手遅れであり、決断を下すのが難しいだろうとコメントしています。

また、W.Mediaがコメントを求めた際、同氏は「米国のハイパースケーラーを顧客とするデータセンター事業者にとっては、契約がキャンセルされない限り、プロジェクトは継続されるでしょう。詳細なルールが発表されれば、キャパシティを計画しているデータセンター事業者は、開発を保留するかどうかを判断することができるでしょう」と話しました。

一方、Maybankは、初期段階の発表は見直される可能性があり、抑制が最終決定された場合、サプライチェーンにある企業は需要の不確実性により短期的な圧力に見舞われる可能性があるとの見解を示しています。「この提案は、ASEAN/グローバルデータセンターのハブとして成長を続けるマレーシアとタイの役割に不確実性をもたらす」と同行は述べています。

関税交渉は継続中

マレーシアの国営通信社Bernamaは、SPI Asset Managementのマネージング・パートナーであるStephen Innesの発言を引用し、8月1日に実施されるマレーシアの対米輸出品に課される米国の貿易関税について、状況はまだ流動的であると述べました。同氏はまた、Marco Rubio米国務長官が7月10日、ASEAN・米国会議のためにクアラルンプールを公式訪問することにも言及しました。多くのアナリストは、これはASEANがアメリカに圧力をかけ、関税に対する姿勢を軟化させる機会だと見ています。マレーシア、タイ、ベトナムは、米国と連動したサプライチェーンに深く組み込まれているため、最も大きな影響を受けると見られます。

マレーシアには25%という厳しい関税がかけられています。 Bernamaが引用したマレーシアの投資・貿易・産業大臣Tengku Seri Zafrul Abdul Azizによると、7月9日時点では、マレーシアとアメリカの間で関税交渉がまだ続いているとのことです。

Stephen Innesは、関税の直接的な影響は不確実性や貿易の躊躇に繋がるとし、「企業は拡大を凍結し、資本は待機状態に置かれる」と続けました。

また、次のように述べました。「関税はパワープレーであり、政策というよりポーカーチップのようなものです。ASEANは米国の貿易政策を天候のように扱うべきで、予測不可能ではありますが、管理不可能というわけではありません。ASEANはサプライチェーンに冗長性を持たせるです。また、米国の民間部門と密接な関係を保つべきです。政策は政治的なものかもしれませんが、利益は明確なメッセージを伝えます。」

同氏は、関税交渉の結果として、さらなる遅延、選択的適用、完全実施の3つの可能性があるとしました。後者の場合、報復や地域的な影響、新興市場への圧力といったリスクがあります。

一方、Bernama紙によると、エコノミストのGeoffrey Williamsは、Marco Rubio上院議員が米国の立場を再表明し、8月1日まで解決策が残っているとしてASEANを安心させるだろうと述べています。

W.Media ( Jan Yong 記者)より抄訳・転載

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