データセンターにおける直流給電の現状は?【特集】
【原文著者】 Dave Sterlace氏 (head of technology for Data Center Solutions at ABB)
データセンターは、環境インパクトを軽減するプレッシャーに直面している。直流は可能な選択肢になりうるのか?
一般的なデータセンターでは、施設へ供給される電力の約半分は、電力変換や配電により失われるか、その電力損失から、そしてIT機器自身から放出される排熱を制御するために利用されています。ラック当たりの電力密度が増加すると、冷却の課題も増加します。また、データセンターは、運用による環境への影響を軽減するというプレッシャーにさらされています。外部圧力とビジネス指令などのの流れもあり、業界は新たな技術や新たな設計原則を探求するようになりました。
直流はトレンドである(もう一度)
何年もの間、業界は、データセンター内の配電を直流に移行する考えについて目を光らせてきました。論理は単純です。AC(交流)からDC(直流)への電力変換がなされ、再び元に戻されるたびに(たとえば、バッテリーバックアップ機能を持つ UPS を配電システムに配置するために)、エネルギーの多くは熱として失われます。電源が受ける変換が少ないほど、損失は少なくなり、発熱は減少します。効率性が高いほど、資本と 運用保守の両面でのコスト削減が実現されます。
直流方式には他の利点もあります。これについては後で説明しますが、最初にその歴史の一部を理解することは有益です。
”電流戦争”とは、トーマス・エジソンが当時進めようとしていた直流システムに対し、ニコラ・テスラと彼のビジネスパートナーであったジョージ・ウェスティングハウスの交流設計が対抗し、その後それが米国の送電網の標準となりました。主な理由として当時、高電圧の交流のほうが長距離での送電が簡単であったため、交流方式が採用されたということです。
直流は高電圧直流(HVDC)送電方式の出現により1950年代半ばに復活し、皮肉なことに長距離で大量の送電をするのに最適でした。現在、HVDCシステムはまさにそれを実現しています。
また、それは非同期の交流送電網をリンクするために使用され、隣接する電力システム間での電力のやり取りを制御します。ニューヨークとニューイングランドの送電網をつなぐクロス・サウンド・ケーブルの、その電流の流れの方向や速度を制御可能な直流システムのおかげで、2003年に起きた米北東部の大規模停電時に、ロングアイランドがより迅速に復旧できたことは有名な話です。ニューヨークは、ニューイングランドの送電網から330 MWの電力を「購入」していました。
HVDC伝送は、小規模の直流給電方式と同様の利点を多く持ちます。これは、同等の交流システムよりも設置面積が小さく、低損失で動作し、信頼性も提供します。
では、データセンターにおける直流の価値を見てみましょう。
データセンターでのユースケース
直流給電は、同等の交流システムよりも銅の使用量が少なく(※ ABBは海洋アプリケーションにおいて最大で40%少ないことを確認済み)、また整流器や変圧器を必要としないため、設置コストが削減されます。前述のように、低損失かつ冷却負荷が少ないため、運用効率もまた交流より優れています。さて、どれくらい良いでしょうか?推定値はさまざまですが、Lawrence Berkeley Labが2006年に当時のAC機器を使用した研究結果によると、直流の方が5〜7%ほど効率が良かったことが示されました。もちろん、AC機器は進化していますが、ここには別の課題があります。最も効率的なパワーサプライといえども、市場をリードするUPSより効率はかなり悪い、よって、データセンターの所有者や運用者は施設の消費電力について総合的に把握することが重要となります。
直流給電は、交流よりもスペースを取りません。これは、より多くのサーバラックや冷却装置の床面積が必要であるということを意味します(重要)。多くの最新のデータセンターは、既に保有している機器を冷却する能力による制約があるからです。最後に、直流システムを使用すると、直流電力を生成する太陽電池や燃料電池などのオンサイトエネルギー源やエネルギー貯蔵デバイスとの統合が簡単であることが実証されています。これらのオプションが施設の総負荷のごく一部しかカバーしていない場合でも、データセンターが事業のグリーン化を模索している中で、ますます魅力的なものになる可能性があります。
直流は、効率やコストに加えて、電力品質やシステム信頼性の面でもメリットを提供します。直流電源システムの設計は、交流の代替品よりもコンポーネント数が少なく(したがって故障点が少ない)シンプルであり、高調波、位相負荷分散や、その他の交流関連で生じる問題を排除します。電気通信業界は、何十年もの間、48VDCシステムを使用して大きな成果を上げてきました。たとえば、日本のNTT は、一般的な構成としての、パスごとに単一のUPSを使用する交流システムと比較して、直流を使用した場合、信頼性が10倍ほど向上するとのレポートを発表しています。
エネルギー貯蔵デバイスは、DCバスに直接配置でき、電力ネットワークの再設計を必要とせず、必要に応じて負荷を追加できます。これにより、施設の規模拡張時のインストールやアップグレード作業が迅速に行えるようになります。
最後に、安全性です。最新のパワーエレクトロニクスでは、直流システムの設計を通じて故障電流を制限することができます。これは、人間や機器へのリスクを減らすための鍵です。
いくつかのハードル
もちろん、データセンターで直流給電の幅広い採用を妨げるいくつかの障壁は存在します。第一に、サーバ用の直流電源ユニットには限られた選択肢しかなく、そして、直流で動作する空調機、防火装置、そしてビル制御機器なども不足しています。
また、例えばアークフラッシュや接地などに関する標準がないため、各システムを個別に設計する必要があり、直流を選択するとコストが大幅に増加してしまいます。IEC では現在、TS62735に基づく400V直流給電システム用5.2kWプラグ、アウトレットの技術標準に取り組んでいます。直流をデータセンターでの現実的な選択肢にするためには、この点についての更なる作業が必要となります。
ただし、おそらく最大の課題は、データセンター保有企業、運営企業、請負業者の経験不足であるといえます。交流-直流変換の配置場所や、UPSと同等のパフォーマンスを提供可能なDCバス上のエネルギー貯蔵デバイスの設計方法など、設計上の課題が残されています。明らかに、直流システムへの理解を深め、変化に対する抵抗を減らすための教育プロセスが必要です。
一つのアプローチは、データセンターがサーバ単位で直流環境を構築しようとする動きです。これにより、多くの電力削減が実現されます。効率の悪い電源ユニットの利用を廃止し、直流電力を受けることができる機器に移行することで、効率性を早期に実現し、そしてデータセンターのスタッフは直流システムの利用に自信を持てるようになります。
今日、世界的に見た直流データセンターの採用は約10MW程度に留まっており、確かに業界内のごく一部でしかありません。それでも、直流に関するビジネスケースは依然として魅力的です。ハイパースケール事業者が一社でも直流への多額の投資を行うと、直流給電を次のレベルに引き上げるのに必要な機器の開発や、標準の改訂を後押しする需要を一晩で作り出すことができます。
Data Center Dynamics
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